Presented By 渚トオル
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もう雪が降り積もり、月明かりで、辺りは銀の粉が散りばめられているかのように輝いている。そして、池の部分だけ、雪が解けていてあたりの風景を映し出している。美しい樹氷、夜月の光、輝く星空。すべてあの時と同じ。でも、ひとつだけ、大事なものが見当たらない…。探しても、もう、どこにもない。 私は夜が好き。なぜなら、夜、またこの池にきたら、彼に会えると思うから…。 そうやって私はいつも土曜日の夜はここにきて、彼を待ちつづけている。 無限に落ちる砂時計の砂のように私は彼を待ちつづけている…。 *** 秋の初めの木々が色づき始めたころ、ある日の夜、私は一人になりたくて、泣きたくて、この森の奥にこぢんまりとある小さな湧き水でできた池『神の小池』に足を運んだ。 雲ひとつ無く、美しい夜空が広がっている。もちろん、こんな夜に、森の奥に来る人などいないので、あたりは静まり返っている。星々が池の水面に反射してまるで池の中にも夜空が広がっているかのように輝き、周りを囲む木々は月明かりに照らされかすかに淡く輝いている。その幻想的でいて、少し淋しい感じのする風景の中、私はいつまでも池の側にしゃがみこみ、池を眺めていた。 「だって疲れるんだ…どこにいたって。」 いつからだろう。こんなようになってしまったのは。 「なにもかも…怖いんだ…。」 みんな私を好いてくれているように見えるけど、本当は嫌いなんじゃないかと思えてしょうがない。自分の居場所はもうどこにも無いのではないだろうか。そう思うと胸が痛む。 「もう限界かな。」 自分の本当の姿を見せると、きっとみんな私を嫌いになってしまうだろう…。だから『良い人』と思ってもらいたくて頑張ってた。でも、もう駄目、自分を偽るのに疲れ過ぎてしまったのかも。 そう思うとなぜだか最初は一筋、やがて涙はとめどもなく、あふれていった。あふれた涙は、池に落ち、私の顔をゆがめる。 「だって今日、いろんなことがありすぎたんだ…。」 *** 昨日、期末テストが返却された。その日は、みんな常になく、そわそわしていた。私の友達は、「テスト、自身ある?」とかいろいろなことを聞いてきた。私はこの手の質問はにがてで、答えを考えるのに苦労しながらも、何とか自然体をキープしたままで授業開始まで持ちこたえることができた。以前はこのようなことはなかったのに…。しかし、今はこのようなことを考えている場合ではない。テストが帰ってくるのだ。 そのうち、先生がきて、全教科のテストを一人ずつまとめて、返していく。私のところまできたとき、なぜか先生の表情が一瞬変わったような気がした、おかしいと思い、答案を見てみたら、普段とっている点数より15点も少ない80点であった…。この点数は平均より25点も高いのだが、私にとってはかなりまずい。 私はせめてテストだけでもいい点数を取らなければならないのだ。そうしないと、居場所がなくなるかもしれないから…。 ――小学校のときに、体育で酷い仕打ちを受けたり、グループからはずされたりと、酷くいじめらた。それで、中学校に入ってから相対内申評価が導入されているということを聞き、その私をいつもいじめていたやつらに仕返しをするために、必死になって勉強し、全国模試ベスト10まで上り詰め、3年生になったころ、いじめ対策委員会を設置し、私をいじめたやつらを処罰した。それ以来、だれも私をいじめなくなったが、それと同時に、誰も近寄らなくなり、いつしか私は、他人との関係、スポーツなど、学校生活に必要なことがどうもうまくできなくなってしまった。高校に入ってからは改めよう、そう私は思っていたのだったが、やはり、うまくいかなかった。それで、1年のころのテストで私の点数がみんなに知られて以来、『歩くパソコン』として有名になり、とたんにみんなが私に近寄ってきて、やさしくしてくれるようになったのだった。 私は軽く見られてはいけない。そういつも自分に言い聞かせて勉強していたのだが、今回は、たまたま失敗してしまった。 そのとき私はまだ知らなかったが、私をいじめたいと思っていたやつらはたくさんいたらしく、点数が少しでも落ちるのを待っていたらしい。 「きみ、そういえば、今回トップじゃなかったんだ。」 「そうだけど…たまたま失敗したんだ。どうかした?」 これはまずい…。今回テストでトップを取ったやつが私に絡んできた。自体は私が想像していた災厄のパターンへなろうとしていた。 「まったく減らず口をたたきやがって、君はもう終わりだ。これからは我々の時代だ。でかい口は利かないでいただきたい。」 私は他人をこのように馬鹿にしたことは一度だってない。なのに、何でこいつは私に絡んでくるのだ?腹立たしい限りだが、 「そう、では、私はこれで失礼させていただく。」 そういい、急いで家に帰った。 家に帰った後、私は部屋に閉じこもり、ずっと泣いた。涙は次から次えと流れ、机をぬらしていく。 「私の唯一の自信持てる『学力』まで他人から馬鹿にされるなんて…。これでもう、私のいる価値はなくなったのかな…もうみんなは私を廃人同然として扱うのかな。」 私は泣きながら布団に潜った。 そして、今日、私が学校へ行ったとき、いつもと様子が違う。朝、私が教室に入ってきたとき、昨日、私に絡んできたやつが、私を指差すと、なぜか、みな私を避けていく。よくしゃべる友達に挨拶しても返答がない。それが学校帰りまで続いた。そこで、私はやっと気づく。 「いままで、私はぜんぜんみんなに好かれてなかったのか…。」 私は、私なりに、みんなに精一杯やさしくしたのに…。 私をできるだけ好きになってもらおうと努力していたのに…。 *** 「でも、ここはいいよな。なんだか落ち着く。」 ここの風景は、なぜか、私を慰めてくれているかのように思えてくる。 そんなことを考えていたら、後ろから誰かの足音が聞こえた。振り返ってみると、月の明かりに照らされて一人の青年が立っていた。 そのとき、私は初めて彼に出会ったのだった。月明かりに照らされ、彼は、周りの闇から、美しく浮かび上がっている。その表情は、どこか悲しそうだった。そして、頬はぬれていて、月明かりが反射して輝いているように見えた。 「誰かいるの…?」 彼はそう聞いてきた。声は若干震えている。 「私は槻木 志摩。君は?」 「僕は東城 尚江。ところでどうしてここにいるの?」 「ちょっと考え事してたんだ…。君こそどうしてここにきたの?それに、泣いているようだし…。」 「僕も考え事、というか泣きにきたんだ…。ここにいると、とても落ち着くから…。」 「どうしたの?」 「ちょっと学校でいじめられちゃってね…。それで、相談できるような友達もいないから、ここにきたんだ。ここだったらいくらでも泣けると思って…。君は?」 「私も、君と同じ、学校でいじめられて、もうどこにも居場所がなくて、ここにきたんだ。」 そこで、私は気づいた。彼も私と同じなのだと…。 *** それから私たちは毎週、土曜日の夜となると、『神の小池』にきて、いろいろな話をした。辺りはもう真っ暗なのだが、いつも彼がガスランタンを持ってきて、池のそばにおいてくれるので、池の周りだけ明るくなっている。そこで私たちは、学校での出来事だったり、ゲームの話だったりと、いろいろなことを話し合った。私は他人と喋るのがこんなに楽しいとは知らなかった。時には夜食を持っていって二人で食べたりとか、たまたま私の誕生日に重なったときなどは、彼がケーキとワインを持ってきてくれて、二人きりで食べたりもした。 本当に、夢のようだ。私がいままで、ほしくて、でもどうしても得られなかったものを彼はくれる。いつしか、彼は、私の無二の友となっていた。それは私の勝手な思い込みかもしれない。だが、私はそう思いたかった。 ――もう学校でどんなに仲間はずれにされても平気。そう、私は一人ではないのだから…。彼がいてくれるから…。 ずっと続けばいいな。この幸せなときが…。 それからというもの、私は泣くようなことはしなくなった。 *** そんなある日、私は土曜日の夜、いつものように『神の小池』にきた。そしたら、そこにはもうすでに、彼がいた。でも、彼は、ガスランタンもつけずに、月明かりの下、池のほとりで、声を殺して泣いていた。 「どうしたの…。」 「これ見て…。」 「もしかして…。」 彼は自分の服を脱いでいく、彼がYシャツ姿になったとき、私は驚いた。白いはずのYシャツが赤く染まっている。そして、所々、鋭いもので切り裂かれたような後がいくつもある。 「いつか死にたいな。僕はこの世界にいてもしょうがないから。そして、星の海を旅するんだ…。」 彼は悲しい笑みを浮かべ、私にそういう。 「そんな、君がいなくなったら、私はどうなるの。私、君のいない世界なんて、とてもじゃないけど、耐えられない…。」 そこまで言って私はなにか今まで心の中に埋もれてわからなかった言葉を見つけた。(そっか、私、彼が好きなんだ…。) 「私、いつもここで待ってるから。だから、お願い、死なないで…。自分が必要の無い人間だって思わないで…。」 そういったとたん、彼は私を力強く抱きしめてくれた…。 「志摩…。本当に一緒にいてくれる?」 「うん…。どこまでもついていくよ。」 「ありがとう。」 そして、唇が合わさる。私、彼とキスしてる…。 それから、私たちは、夜月の光のもと、いつまでも抱き合っていた。 どのくらい、抱き合っていたのだろう、辺りはかすかに明るくなってきている。もうじき夜が明ける。 「もうすぐ、朝だね。明日は学校だけど、大丈夫、もうあんなこと言わないから。」 「ありがとう、でも、ほんとに死ぬとき、私を置いていかないでね。一緒に星の海を旅しよう。」 「そうだね、これからもずっと一緒だよ。」 「うん。」 そういい、私たちは自分たちの家に戻ったのだった。 それが彼と私との最後の会話であることは思わなかった…。 その日の夕方、私は新聞を読んでいたとき、ある記事が目に入った。見た瞬間、私はとてもじゃないけど信じられなかった。『東城尚江 高校で上級生、ならびに同級生に暴力を加えられ死亡』 そんな、彼が死んじゃうなんて…うそだろう?あの時、約束したじゃないか。『ずっと一緒だよ』って、なんで先に死んでしまったの…。そんなのうそだ。きっと土曜日の夜、またあの池にきてくれるよね…。絶対、きてくれるよね…。 あまりの衝撃で、頭の中が真っ白になる。最も好きだった彼が私をおいて、星の海へ旅立ってしまったのだもの。 彼はもう、戻ってはきてくれないのだろう。もう、この世にはいないのだ…。わかってはいるのだが、私はそう願わずにはいられない。その夜、私は『神の小池』で一晩中泣いた。 *** そんなことを思い出しながら、私は池の水面に映った星々を見つめていた。彼はいまごろ、果てしない星の海を旅しているのだろう。でも、彼は今でも、私の心の中で、私と一緒にいてくれる。この世界にはいないかもしれないけど、私の心の中で、翼を休めている。きっとまたこの世界にも戻ってきてくれる。私はそう信じて、いつも土曜日の夜になると、あの池にいき、彼の帰りを待っている。 私は夜が好き。 なぜなら、夜、ここに来ると、星の海を旅している彼が、翼を安めに来てくれる様に思えるから・・・。 「彼のいない世界、淋しい世界、この世界で本当に生きていけるのだろうか…。ずっと一緒にいてほしかったのに…。」 そうつぶやいて、朝が来る前に私はその池を後にした。 *** それから一ヵ月、ますます寒くなり、池の周辺の雪もだいぶ積もっている。 でも、やはり、彼はこの『神の小池』には戻っては着てくれなかった。 「もうだめ…。耐えられない…。」 彼がいないと、私のいる価値が無いから。誰も私を必要となんてしてくれないから。 「いつまでもいっしょって約束したのに…。」 そう思うと、自然と涙が零れ落ちていく。 「戻ってきてくれないんだったら、私もそっちにいく…。」 私は透き通った透明な刃を取り出す。 ――それは、彼と一緒にこの『神の小池』のある森のもっと奥に入っていったとき、小さな洞穴の中で偶然見つけた大きな六角水晶を研いで刃にしたもの。彼と一緒に作った、私のお守り。 「いま、いくから待ってて…ね。」 そうつぶやくと、私はその水晶の刃を思いっきり心臓の辺りに突き刺した。 「やっと会えるね。これからも…一緒に…星の海を…たび、しようね…。」 辺りはよりいっそう寒くなり、ダイヤモンドダストが月明かりに照らされ、美しく輝いている。そんななか、一人の青年が池の辺から星の海へ旅立った。最愛の者の元へ…そして、苦しみの無い、浄化された世界へ、飛びだったのだ。 *** 私も翼をもらって、彼に会いに行った。そしたら、ちゃんと彼が待っていてくれた。そして、彼は微笑んで、『ありがとう、来てくれて。さびしかったんだ…。そうだ、案内してあげるよ、きみが来るまであちこち調べ回ったんだ。』と、いってくれた。それで、私は彼の案内で、天の川とか、大マゼラン星雲とか色々みてきた。(特に、銀河の中心の高エネルギー体から銀河の外に向かって何十光年にも伸びる巨大な光の柱は綺麗だったな)そして、彼と約束した、『本当にこれからはいつまでも一緒だよ』と。私はとても幸せ。もうあの世界には戻れないけど、彼がいるからいい。 今でも、二人は果てしない星の海をどこもまでも、二人きりで飛びつづけている・・・。 後書き 今回の小説、どうでしたか?『想い』というテーマで書いたのですが、なんか最初の『生と死 〜人の心〜』なみの暗さです…。でも、最後は二人とも幸せそうでいいかな?それで、いつもは最初にキャラクター設定を書いておいたのですが、今回はあえて書きませんでした。というのも、こちらでキャラクターを決めるより、読んでいる方々に決めてもらったほうが、よりこの小説の世界を味わっていただけると思ったからです。ということで、自分でキャラクターを想像して読んでみてください。きっと面白いと思いますよ。 作者が想像しているキャラクター どうしてもキャラクターが思い浮かばないという方や、どのようなキャラクターを想定してかかれているか知りたい方へ。 キャラクターは、”私”が女の子で、”彼”が男の子と解釈していただいてもよいですし、”私”も”彼”も両方とも男の子と解釈しても結構です。 私 ―― 槻木 志摩 ―― 高校3年生。一応友達らしき人はいたのだがどうもギクシ ャクしているらしい。人との付き合いを苦手とする、だが思いやりのあるとてもいい性格の持ち主であることは確かだ。過去のある事件がきっかけでこのようになってしまったらしい。ちなみに、容姿はというと、背丈はさほど高くなく、若干華奢で、とても可愛かったりする。 彼 ―― 東城 尚江 ―― 同じく高校3年生。いつも学校では一人で本を読んでいたりする。友達という友達はいないらしい。土曜日の夜となると、よく『神の小池』へいっては考え事をしているらしい。ちなみに、背が高く、細いわりに、肩幅があるせいか華奢な感じはせず、とても綺麗である。 ちなみに、二人とも違う高校に通っているので…。 一応私は、両方とも男の子を想像して書いています。 |