Presented By Dark Lunar
その美しかった翼は何時しか闇に包まれて、
その一対の翼は羽ばたくことを忘れてしまって、
その心は虚を望んでしまっていて。
そして、私は、何処までも
堕ちていく
そこへ、一条の光が射し込んできた。
私は別に、存在価値など無いから…。
無くてもいい「物」だから…。
邪魔な存在と思われるかもしれないけど…。
でも、一応、生きて…いるから…。
誰か、私を…。
私をすきになってほしい。
愛…してほしいのかもしれない。
私…。
屈折した私の思想。
屈折した私の心。
私の心、いつまで、
耐えられるのだろうか…
第一章:日常
「ふっ、笑ってしまうな。」
私は、そう自嘲気味に笑ってその場を見渡す。
月明かりが教室の窓から中をうっすらと青白く照らしている。あたりには誰もいない。そして、私の周りには、散らかった机といす、鉄の匂いがする紅い液体、そして、壱万円札が一枚。
2週間前から続く、変わらない光景。それらを片付けるのは私の仕事。
「よくやるものだ。」
そう薄笑いを浮かべながら呟くと、私・・・神崎 雫は、いう事を効かない体を無理に起こして、教室に備え付けられている掃除道具を取り、そしてあたりの掃除をはじめた。勿論、先ほど呟いた言葉は、このような仕打ちをした者にではない。浅ましい自分を笑った、ただそれだけのものだ。
私は、どんどんと掃除をしていき、最後に、床に撒き散らされている多量の紅い液体も丁寧にふき取った。そして、その紅い液体の存在したことを抹消するため、ルミノール液を含むスプレーをあたりに吹きかけ、月明かりの反射とは別の光を放ったところを持ってきた紙やすりで丹念に磨き、削り落とした後、ワックスを塗る。
「これで終わり。」
私はそういうと、着替えをはじめた。夜中の1時、こんなときに学校にくる者などいなく、巡回も行われていないため、なんのためらいもなく、自分のぼろぼろとなったワイシャツを脱ぎ捨てる。そして、持ってきた新しいワイシャツを着た。
着替えをしているときの雫は元から容姿が非常に綺麗なためか、つきの青白い光に照らされて、美しいものであった。その細い体と白い肌、そして、まだ若干幼さを残す綺麗な顔。それらが月明かりに照らされている様子は、まさにこの世のものではない・・・幻想的といったところだ。しかし、その表情は何の感情も感じられない、まるで機械のような、そんな感じがするものだった。
着替えが終わると、私は、壱万円札を財布にしまい、誰もいないアパートへ帰った。
堕天使には相応しい仕打ちじゃないか…。
第二章:紅色の美酒
私はいつものように、朝食をとり、いつものようにすぐ近くのバス停へ向かう。
その間の景色はいつもと同じで、全てのものはいつもどおり。そして、また今日も、私は死地へと赴くのである。
いつものように、砂をかむような思いでバス停までの道を歩いていると、突然後ろから、やたらと明朗な声が聞こえた。
「よ!雫、おはよ!」
そんな元気な声を聞いて、私は後ろを振り向く。そうしたら、案の定、後ろには私の唯一の友達でもある片桐 湊が手を振りながらこちらを見ていた。
本当に、彼はいつも元気なのだ。彼の辛そうにしている顔はいままで見たことがないといっても過言ではない。辛そうにしているところといったら、予防接種で注射を打たれているときくらいだろう。
「あ、おはよう…」
私はそう呟くように返事をした。
そうすると、彼は元から覇気がないとはいえ、いつも以上に覇気のない私に気づいたようだ。
「雫…どうしたんだよ…元気…ないよ?」
そうやって、彼は本当に心配そうな顔をして私に聞いてきた。
「たいしたことないよ、心配しないで。」
やはり唯一の友達でもある彼にはなるべく心配はさせたくない。
そんなことで、私はわざと軽く微笑んでみせる。しかし、彼はもう私の考えなどお見通しのようだ。
「またそうやって強がってる…最近、雫、変だよ? 悩みとか、あるなら僕に言ってくれれば…できるだけ力になるから。」
私の肩をたたきながら、彼はそういってくれる。私あのような仕打ちを受けるようになってから、毎日といってもいいくらい、彼はそうやって私を励ましてくれる。でも…。
「いや、いいんだ。なんでもないから。」
そういって必死に何事もなかったかのように振舞おうとする私を見て、彼もわかってくれたようだ。
「まあ、言いたくないなら、いいよ。それよりも、早くバス停へいかないと…遅れちゃうよ。」
と微笑みながら言ってくれた。それにつられて私も微笑む。
「そうだね。」
本当に彼はいい友達だと思う。私にはもったいなすぎると、いつも思うくらいだ。髪は夜露に濡れた鴉の濡れ羽ような艶やかな黒で、細いが華奢な感じはしない綺麗な容姿、そして、勉強もスポーツもでき、隠れファンクラブまであると言う。どうしてこのような素晴らしい人が私のような"物"を友達として見てくれるのか、不思議でしょうがない。それはただ、彼が季節はずれの転校生だったからかもしれない。ただ、彼としゃべっているとき、私はとても幸せな気分でいることができる。彼が私を暖かく包み込んでくれる…そんな感じがするのだ。もっとも、それは私が勝手に思い込んでいるだけのことだが…。
バス停までの道のりを二人で色々と話しながら歩いている間、彼といる間だけは私だけの勝手な思い込みではないと信じながら、私はそのバス停までの道、その甘美な時間が永遠に続いてくれればいいとひそかに思っていた。
私が今、生きているのは彼のおかげ…。
第三章:堕天
高校の前まできて、私たちはバスから降りた。そして、自分たちの教室へと向う。私と彼とは同じ高校三年ではあるが、クラスが違うため、途中までしかいっしょにいれない。
「それじゃ、また明日。」
そうやって彼は微笑を返してくれる。彼が"明日"というのは、私がいつも(あの時から)放課後、色々とあの手この手を使って一緒に帰ることを拒んでいるからだ。勿論、私は毎日でも一緒に彼と帰路をともにしたい。でも、それができないのだ。奴らがわざわざ私を迎えにくるから…。
そんなことで、私のせいだということはわかっているが、彼の前では自分にうそをつくことなどかなわず、しゅんとしおれてしまう。そんな私を見て彼は、
「そんな顔されると、なんか、悪いことしてるみたいな気になるなぁ…。」などいって、それから
「また明日も会えるんだから元気出して。」
と、言って、優しく私の頬に触れる。その優しい感触に思わずうっとりとしてしまう。
「うん、そうだね、それじゃ。」
そういって、私は彼とわかれて、教室へ入っていった。
「またか…。」
自分の席まできたとき、そう呟いて、私はため息をついた。
物の見事に私の席だけ溶けたアイスクリームのようなものが乗っていた。私が乗るバスはダイヤの関係上かなり早いため、教室に人は誰もいない。
私は誰もいないうちにさっさと綺麗にしてしまおうと思い、いつも持ってきているウエットティッシュで拭いてしまう。しかし、いつものこととはいえ、あまり良い気分ではない。ただ、私の相手をしてくれるものなど誰もいないから気楽なものだ。しかも、もうあきらめていることだから…。
このようなことを合図として、いつもと変わりのない、歪んだの世界は幕を開けるのである。
午前0時、一週間前から続くその非通知呼び出し。
私はいつものように携帯を手にとり、着信ボタンを押した。
「俺だ、T2R13教室までこい」
そして、すぐにそれは切れてしまった。いきたくはない。しかし、行かなければひどい目にある。
私は一度その要求に応じなかったことがあった。そうしたら、やつらは翌日、催眠ガスを持ってきて放課後、私に吹きかけて眠らされた。そして、そのあと、気が付けば学校裏の木に針金で括り付けられていた。もうどうなってもいいと思い何も考えないでぼーっとしていたら、奴らがきて、どこから調達してきたのか、箱から比較的大きな消火器を取り出し、消火剤を私に向けて吹きかけてきた。さも面白そうに笑いながら…。そして、消火器が空になったかと思うと、私がもう抵抗する気力もないのをいいことに、私の体を拘束していた針金をはずすと、その場に立たせ、背中を思いっきり消火器で打ってきた。一瞬息が出来なくなって、気を失ってしまったらしい。気が付いたら、体中はナイフで切られていてあたりは紅い液体で染まっていた。
行っても行かなくても、どっちにしろ私はやられるのだ。
それからというもの、"私のような必要のない者は連中の慰み者になるのがせいぜいだ"と自分に言い聞かせている。
そう、傷つけて楽しむために私を必要としてくれるなら、それでいい…。
まだ夏で、日もだいぶ長くなってきたと言うのに、あたりはもうすっかり暗くなっている。外もだいぶ冷え込み、せみの鳴き声も聞こえなくなった、そんななか、誰もいないはずの教室から鈍い音とともに、誰かのうめき声が響いている。もちろん、それを聞いているものなど誰もいない。
「うっ、あぁぁ…。」
その痛さに、口から思わず声が零れ落ちる。腹を思いっきり殴られ、私はどさりと床へ倒れこんだ。
「ふっ、いい眺めだ。」
そういいながら奴・・・相澤は床に倒れている私を足で転がしながら呟く。
確かに見方によっては良い眺めである。
あたりの床は血で紅く染まり、そこには華奢で肌の白い少年が痛々しく血を流しながら倒れている…。
人の血は最高の果実であり、人の苦しみは最高の蜜。
そして美しい体と言う名のシロップを掛け合わせ、
ヒトを狂わす最高の…美酒となる。
まさにこの光景は、その美酒そのもの。
腕や体はいたるところをナイフで切られ、紅い血が痛々しく流れ出している。
しかし、いくら切られても、まるで餌食にされるのを覚悟した獲物のように、雫は抵抗しようとしない。
「すこしは喚いてみろよ。痛いんだろ〜、雫ちゃん」
何回も私をナイフで切りつけたり、足でけりつけたりした後、あまりに私が抵抗しないためか、奴は私を嘲笑いぎみに見下しながらそんなことを言ってきた。
「いいよ。好きにして。私は存在自体を否定された"物"だから…。」
別にもうどんなことを言ってもこの苦痛から逃れることはない。それに私は、私は誰からも必要とはされない"物"。たとえ私を傷つけて楽しむことで、私を必要としてくれるのなら、それでいい。
そんなように自棄的に言い捨てると奴は面白そうに私を見て、こう言った。
「いい心がけじゃないか。1万だけの価値はある。」
そう、奴らは私を満足するまで甚振った後、必ず1万円札を私の横へ置いていく。
そのたびに私は、"体を売り物にできる者"と改めて思い知らされるのである。
最初のころ、それは私を随分と傷つけたが、"自分"の全てを捨てた今となってはもう同でもよいことだ。
ついそんなことが思考の中を過ぎっていく。私、いつになったら死ぬだろうか
それとも、私のような穢れた『物』は汚れきって
それから惨めに消えてなくなるのが相応しいとでもいうのだろうか
神がいるのであれば、どうか助けてほしい
そして、次に自嘲的な笑いがこみ上げてくる。
神なんているはずないじゃないか。
だって、神は…
人が自らの愚かさを教訓に
人が人に似せて作った
「完全なる人の姿」
なのだから
また、奴は私を傷つけて遊ぶ。
そうやって私を傷つけるだけなら良かった。でも、今夜は違った。
しばらくして、奴は私の両腕を拘束していた針金をはずした。そして
「いいものを見せてやるよ。これは俺からのお礼だ」
そういって人の悪い笑みを浮かべながら、両手をたたく。すると、一人の少年を担いだ奴の仲間が部屋に入ってきて、その少年を私の前に投げ捨てた。思わず息が止まるかと思うほどだった。見紛う事のない濡れ羽色の髪、そして、綺麗な肌。
そう、その少年こそ、雫のたった一人の友達…湊だった。
「ひ、ひどい…。」
私は思わず息が詰まりそうになる。彼の綺麗な髪は紅い血で染まっていて、その白い綺麗な肌からも多量の紅い液体が流れ出ている。おそらく、彼も奴らにやられたのだろう。
「湊君!しっかりして!」
私はもうあまり言うことを聞かなくなっている腕を伸ばして彼の頬に触れ、そっと抱きしめる。
「まさか湊君がやられるなんて…。きっと私のせいだ、私が湊君と一緒にいるから…。」
そう呟いたとき、彼を担いできた奴がいきなり彼めがけてナイフを投げつけてきた。
「だめ、これ以上湊を傷つけないで!」
そう叫んで、私は湊に覆い被さった。
さくっ…
ナイフは私の背中に突き刺さった。
「あうっ…。」
その痛さにまた声が出てしまう。でも、自分のことはどうでも良かった。これ以上彼を傷つけさせはしない。
そう思ってずっと彼に覆い被さっていると、突然、背中に暖かいものを感じ、突き刺さったナイフが抜き取られた。湊が目を覚ましたのだ。
「雫…。」
湊はうっすらと目を開けて、雫の名前をよぶ。
「ごめんね、本当にごめんね…私のせいで…。」
私は彼を抱きながら必死に謝った。
それを見て、奴らは
「どうだ、いいものだろ?雫。三日前からおまえの代わりに自分をいじめろって言ってたんだぜ。」
と、けらけら笑いながらいう。
「なに!」
そういって、私は奴を睨む。
「そーんな怖いかおしないの。ま、君の場合はその顔もかわいいんだけどね。」
そういって、奴はこぶしに力をいれて、私に殴りかかってきた。刹那、彼が私の前に急に現れ、そして、私の代わりに倒れたではないか!
「湊君!」
私がそう叫ぶと、彼は弱弱しく立ち上がった。そして、
「お願い…雫をこれ以上いじめないで。僕が代わりになってもいいから…。」
と、いかにも奴らに懇願するかのように言っているではないか!なぜそんなことがいえるのか私は不思議でしょうがない。こんなのは、堕天使である私が受ければよいこと、彼のような者が受けるものではない。そう思って、私が口を開こうとしたとき、奴らは彼を一発殴って、そして、
「いや、今日はやめておこう、これ以上やって死なれたらやだからな。それじゃ、雫、後処理よろしくな。」
そういって、奴はまた、私の横に、壱万円札を置いて、さっさと帰っていってしまった。
第四章:温もり
あたりは再び静寂に支配され、教室の窓からは青白い月明かりが差し込んでいる。
そして、それに反射して、紅い液体がどす黒い光を放っている。
奴らが出て行ってから、教室には私と湊の二人だけが残されていた。
「大丈夫?」
そういって、湊は私をそっと抱きしめてくれた。夏とはいえ、夜中は寒い、まして血を多量に流した後だ、彼の体温がとても気持ちいい。これが人というものなのだろう。それはとても暖かく、そしてとても私を安心させる…。
「うん、それより、湊君のほうが…。」
そういって、私も湊君を抱きしめ返す。実際、湊も私と同じくらいやられたらしく、純白だったであろうワイシャツはずたずたに切り刻まれ紅く染まっている。そして、髪もまた、同じ色がついている。
そんな痛々しい姿の彼を見ていたら、かってに涙が溢れ出してきて、私の頬をぬらす。彼をそんな風にさせてのは私だから…。
それを見て彼は、
「いいんだ。僕は別にどうなっても良いから…。」
といって、私に微笑みかけてくれた。その微笑みはとても悲しそうなものだった。
こんな彼を見たのは初めてだ。
彼がそんなことを言うものだから、私の目からはますます涙が零れ落ちていく。
「ごめんね、ごめんね…私が…いつも一緒にいたばっかりに…。」
そうやって私が必死に謝っていると、彼は困ったような顔をして、
「いや、彼らを止められなくて、君に痛い思いをさせてた僕も悪かったし…。3日まえ、君の様子があまりにも変だから、放課後ずっと残ってたんだ。そしたら、奴らがきて…。それでわかったんだ。」
とゆっくりと言った。そんなことを聞いていると、何も出来ない自分が無情に情けなくなってくる。自分は他人を犠牲にすることしか出来ないのかと…。でも、それを聞いて、私は少し嬉しくもなった。いつも自分は必要のない"物"だと思っていて、人に決して好かれることはないと思っていたから…それがたとえ友達でも…。でも、彼は本当に私を好いてくれていたから…。
そうやってうつむいている私を見て、彼は静かに、呟くように言った。
「気にしないで。僕は…の堕天使だから…。」
え?今、なんて…。私はもう一度聞き返そうとした、そしたら
「そうなんだ、僕はもう燃え尽きてしまった人間だから…。だからもうどうなってもいいんだ。」
と言ってきた。
私は湊君がそんなように自分を思っているなんてちっとも知らなかった。でも、なぜ?勉強も、スポーツも出来、そして、綺麗な容姿…まさに完璧だとおもうのだけれども…。
「湊君は堕天使なんかじゃないよ。それは僕のような"物"のことだよ。持っているものは何もなくて、そして誰からも必要とされない、必要とされたとしてもそれは玩具としてであって…。本当の友達は湊君が初めてなんだ…。だから全然助けようとしなくてよかったのに…。」
ここ河南高校は全国でも有数の進学校で皆、クラスメイトを落とすことにしのぎを削っている…。そんな高校だ。昔は私もトップレベルにいたのだが、病気で、一週間授業を休んだせいで、授業についていけなくなり、それ以降、成績はさがり、最初はそれなりにいた友達からも見下され、ついには毎日いじめられるようになった。
そんななか、時期はずれの転校生・・・彼がやってきたのだ。
「僕がなぜ、こんな時期はずれに転向してきたか、わかる?」
彼はそんな何の脈略もないようなことを聞いてきた。
「そんなこと聞いてないよ…。」
と私は言ったが、彼はお構いなしに話し出した。
「実は、僕、前の高校で、おそらく君と同じような状況に陥ってね…。
最初は趣味と勉強を両立とか言って好きなことやりながら勉強やってて、それなりに点数もよかったんだけど、でもやっぱりそんな事実際には不可能だったんだ。だから…次第に落ちていって…しまいには最下位さ。」
彼は可笑しそうにそんなことを言った。
「高校生なんて、所詮そんなものさ。"自分"なんて必要ないのさ…。」
「………」
「そんなことだからさ、クラスの奴からは見下されるし、親にも『死んで結構』って言われたしね。そんなことで、もうそこに、いられなくなったから、家出てきて、バイトしながらこの高校に通ってるってわけ。」
そういって、彼は自虐気味に笑った。
「湊君ってほんとに強いんだね。」
そう、だって、そんな仕打ちを受けたあと、また高校へ編入してくるんだから…。私にはとてもじゃないけど考えられない…。
そんなことを思っていたら、彼は首をふって、こう答えた。
「違うよ、僕は…一度自分を捨てたんだ…。そして、それは二度と戻ってこないだろう。
確かに、勉強もスポーツも容姿も手に入れた。でも、その代償として、趣味や考え方とか…自分の全てを捨て去ったから…。」
無表情ではあるが、どこか寂しそうに、彼はそういった。
私は、それを自分で聞いておきながら、胸が詰まる思いで聞いていた。
自分を捨てたって…。
しばらく、沈黙が流れた。
そして、しばらくしてから彼が、私をまた、強く抱きしめて、静かに言った。
「お互い、堕天使だったんだね…。」
それは傷を舐め合うようなものかもしれない。でも私はあえてそうしたい。
彼と一緒にいたい…。彼の傷を少しでも癒してあげたい…。
私は、そんな傷を負ってまで強かに生きようとする彼に惹かれていく…。
そして、願わくば、かれも同じ気持ちでいてほしいと、心の隅で思っていた。
第五章:安らぎ
教室の中は静寂に包まれ、周りの景色は窓からさす月の光に照らされて青白く光っている。静寂の元、全ての時間が止まっている中、私と彼の周りの時間だけが進んでいる、そんな感じがした。そして、私の目の前にいる彼はとても暖かく、月の光に白く照らされている様子は、まるで天使であるかのように私の瞳に映りこむ。"幻想的"という言葉がとてもあう。
私たちはしばらくの間、抱きしめあっていた。
その間、彼は私の髪をすきながら、私をじっと見つめていた。私の体全身に、彼の暖かさが伝わってきて、今までの友達という感情からもっと別の…そう、もっと濃密な感情へ変化していく…そんなように感じる。男同士なのにこんなことを想ってしまう自分はきっと変なのかもしれない。でも、今は全てを忘れて彼の暖かさをもっと欲しい。
私がその暖かさにうっとりとしているとき、ふと床の方に目がいった。とたんに、全身から血が引いたような、そんな感覚に見舞われた。先ほどまで行われた恐ろしい行為、そして、それの名残は、床中に紅い液体として残っていた…。胸が苦しい…心が…痛い…。でもそんなこと、彼には気づいて欲しくなくて、私はいつものようにさっさと掃除をしてしまうことにした。
「みなと君、ちょっと待ってて、ここ、掃除してしまうから。」
私は極力普段と同じ口調になるよう、湊に微笑みを返しながら、そう言った。
「それじゃ、僕も手伝うよ。」
そんなようにして、彼も一緒に手伝ってくれることとなった。
私たちは床にこびり付いた紅い液体をいつも持ってきているウエットティッシュで丹念にふき、ついでにぐちゃぐちゃになっている机も綺麗に整頓した。ここまでは特に驚いた様子はなかったが、私がおなじみのルミノール薬を含むスプレーを取り出し、あたりに吹きかけた時、彼はとても驚いたようだった。あたりは血がついていたであろうところが青白く光り輝き、なんとも幻想的な光景だ。
「なに?これ…。」
「ルミノール液のスプレーだよ。これで血痕を光らせて、そこの部分をこの紙やすりで削り落として証拠隠滅って分け。」
「それはわかるけど…。そ、そこまでやるんだ…。ルミノール液、結構高いのに…。前、学校の先生ケチって代行品使ってたし…。」
そんなことをしゃべりながら、二人で一生懸命青白く光っているところを紙やすりで削り、ワックスを塗っていった。一人でやるとこれほど面白くないものはないが、彼とやっていると、なんだかその青い光が回りの景色に溶け込み、とても幻想的に目に映ってとても楽しくなるから不思議だ。
一通り掃除が終わった。二人でやると、やはり早い。私が椅子に座って一息入れていると、彼が私の肩に手を乗せてきた。
「ねえ、雫?もしよければ僕のアパートにこない?誰もいないから大丈夫だよ。傷の方、手当てしてあげる。」
そんなことを言ったかと思うと、急に私の足元から床が消えた。
「雫、かるいねぇ、何キロあるのさ…。」
とそんなことをいいながら、軽々と私を持ち上げて、俗に言う"お姫様抱っこ"の状態にされてしまった。
「そ、そ、そんなに軽くないよ…大体…50Kgはあると思うし…。」
私は顔を赤くしながら、しどろもどろにそう答えると彼はかすかに笑って、
「十分軽いよ。」
という、しかも、私の耳元で…。
なんて思っていると、
「僕のアパート近いし、このまま一緒にいこう、どうせあたりには誰もいないことだし…」
とさらに追い討ちをかけるようなことまで言ってくるし…。
ううう、湊君、意地悪だ、いじわるだ、イジワルだ…。
でもまあ、彼にはこういう事されても良いかなって思ってしまう。それより、彼は大丈夫なのだろうか。彼も私と同じくらい酷い怪我を負っているというのに。
「それより、大丈夫なの?」
と私が心配そうに聞くと、彼は笑って、
「大丈夫、こう見えても結構丈夫だからね。」
っていってくれた…。
彼は本当に強いんだなと改めて思う、それとともに、私もまた彼のように強くなりたいとも思う。それに彼は私を本当に必要としてくれているみたいだから。
だから…私も、彼を失いたくない…絶対に…。
第六章:汚れ無き世界を望んで…。
それから私は本当に"お姫様抱っこ"されたまま彼のアパートへと向かった。
学校から出た時はもう夜中の1時を回っていた。あたりは静まり返り、近くの森からの自然のざわめきがとても耳に心地よい。そして、月の柔らかな光、そして、夏の少しひんやりとした夜風が全身をやわらかく包み込んでとても気持ちいい。
いつも昼間見ている風景とはまるで違う。人は明るい自然を美しいと思うとともに、先天的に恐れているであろう闇に惹かれると言うのも良くわかるような気がする。この夜空、月の光、そして柔らかな風、全てがいつもと違う、しんみりと身にしみる感覚。まるで別世界にきているようだ…。そして、私の目の前には彼の横顔がある…。
最初は誰かに見られるのではないかと、とても恥ずかしかったが、彼のその細いが力強い腕に抱かれているうちにどうでも良くなってきてしまった。体のあちこちはまだかなり痛むが、彼に抱かれているというだけで痛みが和らいでいくような気がする。さっきのことは全て忘れて、今は彼のことだけ考えよう。そう私は思った。
人に好かれることがこんなに気持ちのいいことだとは思いもしなかった。
彼が初めてだったから…。
「さっ、ついたよ。」
そんな声で私は目を覚ました。目を開けてみると、真上には満天の星空、そして、彼が微笑みながら私を見つめている。
私は彼の腕から降りると、彼は私を部屋へと通してくれた。
「入って入って。」
「お、お邪魔します…。」
「誰もいないから、楽にして。」
とそんなことを言いながら、入った。そして、彼が部屋の電気をつけたとき、彼はどうやら絶句してしまったようだ。そしてそれは、私も同じだった…。
「こ、これは酷い…。」
確かに、体の痛みはだてじゃなかったが、この身なりはただ事ではない。
二人とも、純白だったであろうワイシャツはずたずたに切り刻まれ、赤く染まり、所々どす黒く変色している。そして、所々から見える肌はあざだらけである。ズボンの方も見るに耐えない状況となっていた。これは私にとってはいつものことなのだが、どうやら彼には相当酷く見えたらしい。
「話は後、早くシャワー浴びて手当てしないと…。」
そういって、彼は私をバスルームへ案内する。
私が全ての衣服を脱ぎ捨てバスルームへ入ったとき、脱衣所の外から彼の声が聞こえてきた。
「バスタオルと着替え、ここにおいて置くね、下着の方は僕のだけど、新品だから…。」
「あ、ありがと。」
そんなように軽く返事を返しておく。そうしたら、少し間を置いて、彼は次に少し遠慮がちに思いがけないことを言ってきた。
「あのさ…一緒に入っても良いかな…。」
刹那、私は思わず手にもっていたシャンプーを落としてしまいそうになった。
えー、ま、ま、ま、まさかぁ…。
私はそれを聞いていらぬことを想像してしまいそうでパニックに陥るところだった。湊君が…いや、そんなことはない。私が要らぬ無限ループにはまっていると彼がそれをブレイクしてくれた。
「あのさ…別に変なことは考えてないから。」
そんなことを言ってくる。そうだよな…私が間違ってたんだよな…。そんなことを思いながら、
「い、いいよ。」
と言う。そう、彼が変なことするなんてないじゃないか。
そうしたら、すぐにドアが開かれ、血だらけの彼がバスルームへ入ってきた。
彼も相当やられたらしい。
「いやぁ、お互い結構やられたね。」
「ほんと、早く手当てしないと…それより…」
そんな血だらけで、痛々しい姿の彼など見ているだけでも辛い。きれいな濡れ羽の髪も紅黒い液体で汚れてしまっている。だから、
「体、流そうか…。」
といってみた。そうしたら、彼は嬉しそうに微笑み、
「あ、それじゃあ、お願いしようかな。」
といってくれた。しかし、彼の体は相当傷ついているみたいで、スポンジなど使うと余計傷口が広がってしまいそうだった。そのため、私は自分の手にボディーソープをつけ、彼の体に丹念に泡をつけ、そして、痛みを与えないように、こびり付いた血をゆっくりと取っていく。
そのとき、周りは湯船の湯気で霧がかかったようだったから少しは良かったが、私は自分の顔がかなり赤くなっていることが感じられた。さすがに、同姓でしかもやむ終えずとはいえ、じかに肌に触れるのはかなり抵抗がある。彼も同じなのだろうか、どこかそわそわしている。しかし、彼に直接触れると言うことで嬉しく思うことも否めない。
「なんだかくすぐったいね」
そう彼は少し笑みを含みながらいう。
最後に、彼の全身にシャワーを浴びせる。泡が流れていくほどに、彼の美しい肌が姿をあらわす。その美しさに私は暫し見とれてしまったほどだ。
「はい、終わり。それじゃ、今度私使うね。」
「それじゃ、今度は僕が流してあげようか?」
そういって、彼も自分の手にボディーソープを付けて泡立て、そして私の体に丹念に縫ってくれて、体にこびり付いた血を洗い流してくれる。その優しい手の動きにまた顔が赤くなる。やむ終えないとはいえ、これは実際かなり恥ずかしい。でも、彼だからいい。
そんなことを思っていると
「雫ってほんとに綺麗だね…。」
そんなことを言ってきた。そして、彼は私のいたるところにある傷を1つ1つ舐めてくれる。
カーっと全身が熱くなるのがわかる。まさかここまでするとは…。
「そ、そ、そんな。湊君だって綺麗でしょ。」
本当に湊君は美しいのだ。さっきまでは紅い液体がこびり付いていた髪も、今ではすっかり元の鴉の濡れ羽色に戻っている。そして、細いがしっかりと筋肉がついていて、顔もしっかりとした意思を持っているようで、この上もなく美しい。そう思う。
「いや、雫も綺麗だよ。そんな綺麗な顔や肌の人、女子生徒にもそういるもんじゃない。」
ううう、やっぱり彼は意地悪だ…。女子生徒と比べるなんて…。
「それに、心がとても綺麗だからね。」
そんなことまで言ってくる。
「もう、ほんとに冗談きついんだから…。」
そんなことをいいながら、二人で湯船に入っていた。
着替えをして、バスルームから出ると、彼は早速体のいたるところにある傷の手当てをしてくれた。いつも傷の手当ては自分で行っていたが、他人に全てを任せるというのもいいものだ。そう思う。自分でやるよりも痛みの引き具合がいいような気がする。
彼の手当てにより傷の痛みがだいぶ治まると、なんだか落ち着いて急に眠くなってきた。そうしたら彼もそれに気づいたらしく、私をベッドまで運んでくれた。そして、彼自身も手当てを済ませると、私と添い寝するような感じでベッドにもぐってきた。
「ねえ、ちょっと話があるんだけど…。」
私は思い切って彼に言ってみた。彼になら話せる、なにも言ってくれなくてもいい、ただ、聞いてくれるだけでもいい。
「私、以前はこの学年でトップだったんだけど、病気で一週間休んでしまったんだ…。」
「…………」
「そしたらもう手遅れで…一気に落ちてしまって、友達らしき人も結構いたんだけど、みんな私を見下すようになって…。最後には毎日いじめられるようになったんだ。しかも、1回壱万円で…。」
「そっか…。」
「いじめられるだけならまだ良かったんだけど、1回壱万だなんて…。」
そう、いじめられるだけならまだよかった。その1回壱万というので私は酷く傷ついた。自分は体で稼ぐことが出来ると否応なしに思い知らされるから…。そんなことを思うと、自然と涙があふれてくる…。
そうしたら、彼は零れ落ちた涙を指ですくってくれた。
「そうだったんだ…。」
「もう自分はいらないただの玩具でしかないと思ってた。でも、そんな時、湊君がきてくれたから…嬉しかったんだ。」
そういったとたん、彼が力強く私を抱きしめてきた。
「僕、君と会って話をしたときから、雫のこと気になってた。」
「…………」
「前の高校で、最初のころは僕も君のようにトップと言うわけではないけど、友達もそれなりにいたんだけど…好きなことに力を入れすぎてしまってね…。そうしたら、どんどん学力は下がっていき、ついには友達も、そして親からも捨てられた。それから僕は自分を捨てたんだ。だから、君がいじめられていると言うことをしって、助けたいと思ったんだ。」
「そんな、だからって自分が身代わりになろうだなんて…。」
「いや、あれでよかったんだ…。僕は一度全てを棄てさったから。それに、どうすることも出来なかったし…。」
しばらくの沈黙の後、
「こんな僕でよければ君を愛したい…だめだろうか…。」
「湊君…。」
私も湊君を思いっきり抱きしめた。
男同士でも一向に構わない。彼と会ってから私の中にしまい込んでいた本当の想い…。
私は…。
「好きだよ…。」
そして、唇が合わさる。私、湊君とキスしてる…。
それから私たちは窓から夜月の光が射し込む中、何時までも抱き合っていた。
彼が横にぴったりくっ付いていてくれるから、とても温かい。
彼の温かさ…そして、幸せを体中に感じながら、私は眠りの神へ体をゆだねる。
今夜は久々に、気持ちよく眠ることができそうだ。
後書き:
カーテンの隙間からは柔らかな朝の光が差し込んでいる。もう朝だ。朝というのはいつも、虚無への出発点ということで、気持ちが滅入ってしまっていた。しかし、今、隣には最愛の…彼…雫君が眠っている。それだけで自分の気持ちが暖かくなるような感じがする。
この顔が再び涙で濡れることの無い様、僕は彼を守りたい…。
しばらく、彼を見ていたら、そのあどけない表情につい、僕はキスをしてしまった。
どうやら彼を起こしてしまったようだ。彼がうっすらと目を開ける。
「おはよう…。」
まだかなり眠そうだ。
「おはよ。」
そう僕は明るく挨拶をした。
体はまださっぱり治っていなく、全身がキリキリ痛むが、心のほうの痛みはまったく感じられない。
こんなにも人は暖かいものだと感じられたのは、かなり久しぶりだ。
「さ、朝食としようか。」
そういって、僕は雫を食卓テーブルへ招こうとした。しかし、やはり彼も昨日散々な目にあっているため、体中がいたむようだ。彼がベッドから立ち上がったと思った刹那、いきなり倒れてきた。
「し、雫、大丈夫!」
僕は思わずそう叫んでしまった。僕は彼が床に激突しないよう、慌てて彼の体を支えた。
彼を抱きかかえるような体制になったとき、若干はだけている彼の寝巻きの胸元から、昨日の悪夢を思い出させる傷跡がいくつも見える。自分がやられたときに出来た自分の傷は見ても何とも思わない、むしろ、必要とされない者にはふさわしいと思っていたが、こうやって彼が傷ついているのを見ると、あまりの痛々しさに胸が締め付けられるようだ。そう、"心が痛む"といったところだろうか。
そんなことを思っていることは彼には知られたくなくて、僕は彼の肩に顔を寄せた。そして、
「無理しないで、朝食、ここまで持ってくるから…。」
そういって僕は彼を再びベッドに横にさせると、朝食の用意をするためキッチンへと向かった。
「今日は何を作ろうかな〜」
料理は一応出来るが、一人暮らしのため、いつもコンビニ弁当で済ませていた。でも、今日は雫君がいる。そう思うと自然と料理にも力が入る。
雫はどんなものが好きなのか、そんなことを考えながら、コーヒーメーカーをセットして冷蔵庫からいろいろと食材をだし、調理する。
(喜んでくれればいいな…。)
しばらくして湊君が朝食を持って、戻ってきた。
「す、すごい!全部自分で作ったの?」
湊君が持ってきたお盆の上には、見事なまでに整った和食風の料理があった。
「うん、結構気合入れて作ったんだ…。」
彼は少し照れながら言う。
品数はそんなに多くはないが、その料理の一つ一つに心がこめられていて、とてもおいしい。彼の温かさ伝わってくるようだ。
私も彼と同じくアパートでの一人暮らしだから、こんな温かい料理を食べるのは久しぶり。
「すごくおいしいよ。」
私は素直にいうと、
「ありがとう。喜んでくれるとうれしいよ。」
と彼は微笑みながら言ってくれた。
それから、私達は朝食を食べながら、色々な話をし、笑いあう。
とても温かい気持ちが私の心を満たしていき、とても心地の良い。
彼となら、どんなことでも気軽に話せることができるから、ついつい長く話してしまった。
しかし、時間は待ってはくれない。ふと時計を見てみると、もう登校時間が迫っていた。
「もう時間だね…学校いかなきゃ…。」
そう考えると、自然と気持ちが萎えてしまう。私はもっと彼と話していたかったのに。
「そうだね…。」
彼も頷いた。そして、彼は私にひとつ、何かを握らした。それが携帯用のバタフライナイフであることに気づくまで時間はかからなかった。
「なに…?」
彼の意図が読めなくてそう聞いてみると、彼はすごいことを言ってきた。
「復讐…。奴が出てきたら刺す。」
彼は間違いなく本当にするだろう。その彼の真剣な眼差しが私を射抜くように向けられた。
曇り一つない彼の瞳。そして、悲しみを詰め込んだような青い色。じっと見つめていると純粋で強い意志をもつその瞳に吸い込まれそうだ…。
しばらく私達の間には沈黙が流れた、が、それを破ったのは彼のほうからだった。
「確かに、奴らの周りの環境からも同情すべき点はあるかもしれないけど、それによって罪の重さが変わることはないからね。自分で犯した過ちは自ら責任を取ってもらわないと…。」
と、彼は独り言のようにそんなことを言った。それを聞いて、私は確かにそうだと思う。
精神障害や劣悪な家庭環境下におけるストレスが原因だとしても所詮悪いことは悪いこと。その罪が軽くなることなんてあってはいけない。そう思うのは私がまた未熟な高校生だからだろうか…。でも…。
「私も協力するよ…。」
そういって、彼にゆっくりと抱きついたのだった。
彼の奥に沈む悲しみを少しでも軽くしてあげたいから…。
それから、私達はいつものバス停までの道についた。いつもは学校に行きたくないという思いから、憂鬱な気分。しかし、今日はいつもとは違う。そう、私をいや、湊君を落としいれようとする奴らに復讐するのだ。
放課後、一通のメールが携帯電話に入ってきた。
『放課後、R22区域13号室へ』
また奴らのものだ。私は湊君にそれを見せる。
「いよいよだね。」
「うん。」
そういいあって、指定の教室へ入っていった。
静まり返った教室。窓から差し込む月の光。そして整然と並べられた机。
昼間は何人もの人がいたであろうこの教室に、今いる者は一人もいない。
静寂に満ちたその空間。
私がその教室に入ると、そこにはただ、整然と並べられた机と、ろくに清掃もされていない黒板があるだけだった。
人気のないその教室。それに私は少しほっとした。
「まだ、誰もいないようだね…。」
そういって、私は湊君のほうに振り向く。
その時、一人の刃物を持った青年が背後から湊君に襲いかかろうとしているところが私の目に飛び込んできた。
「湊君、危ない!」
私はそう叫んだ。しかし、それはもはや遅く、振りかざされた刃物はワイシャツ越しに湊君の背中を切り裂く。
「っ…!」
湊君の声にならない声が鮮明に聞こえてくる。
「なんて酷い事を…。」
そういって私は奴を睨み付けた。
「いやいや、そんな怖い顔をされてもね〜。ちゃぁんと湊ちゃんにもお金払うから、心配しないで。」
と相澤はいかにも馬鹿にしたような口調で薄笑いを浮かべながらいってきた。
そして、私の方へ近づいてきた。そして、私の顎を持ち上げる。奴の右腕には鋭く光る刃物が握られている。
「まずは君から…。誰からも相手にされてないおまえの相手をしてやってるんだ。感謝しろよ。」
そう侮蔑をこめた口調で相澤が言ったとき、私はついに叫んだ。
「確かに私は何も出来ない、要らない"物"なのかもしれない。でも、一応は生き物だから…。そのことだけはわかって!」
そういって、私は相澤の胸のあたりに思いっきりナイフを突き刺した。そして、止めを刺すかのように今度は湊君が、やつに向けてナイフを投げつけ、背中にさした。
刹那、彼はうめき声を上げながら床に倒れた。
これでいい…。
「おわったね。」
「うん。」
湊君は相澤を見ながらうなづく。
しばらくの沈黙の後、
「もう絶対に雫を泣かせるようなことはしないよ。」
そう私を抱きしめながら、湊君がいった。
「私も…湊君が悲しまないよう、ずっとそばにいたい…。」
と私も彼を抱き返しながらいった。
二人でいればどんなに辛い事があっても乗り越えていけるような気がする。
この湊君との一緒の時間、純粋な心をもったまま、
どうか、この幸せが永遠に続いてほしい
そう思う。
堕天使 それは天界から追放されし存在
そして、綺麗で繊細な者のなりの果て
己の能力の限界以上を求められた
そんな者のなりの果て
美しかった翼は傷つきすぎて
美しかった体は汚れすぎて
羽ばたく事を忘れた、そんな者…
真実を見つけたとき、
その傷は癒され、
そして新たな道は開かれる…
いつものことですが…盛大に狂っています!特に、今回は全体的に甘く美しくを目指したため、かなり際どいシーンもあるかも。特に、シャワーを二人で浴びているところはちょっと…。まぁ、このくらいネット通な方なら大丈夫まだままですよね (^^;
でも、最後の相澤君、言っておきますけど、死んでませんよ!生きてます。ただし、全治一ヶ月の重症です。
うーん、やっぱりあの二人も高校生ですね…。復讐に流血を選ぶなんて…。リスク高いでしょ。やっぱり高校生ですね。もっとエレガントな方法がありますね…。そこが高校生のいいところですね。自らの感情によってのみ動く。いいことなのではないでしょうか。どろどろとしていないのがよいと思います。
この小説での堕天使、の定義、そして真実の意味は…じぶんで考えてみてください。ここで説明するより、そちらのほうが面白いと思いますよ。
はっきり言いましょう。
危険&可笑しいです いやあ、すみません。
以前発表された渚さんの3つの小説があまりにも印象的過ぎて、うつってしまったのかも。
私自身は、ほんとにココまで捻くれてないので…。誤解しないで!
小説を書く自分と、現実にいる自分とは違うものです。
注意:これだけはいいます!これは架空の世界です!
絶対に現実と重ね合わせてはいけません!
The End