Presented By Dark Lunar
序章:The lost Memory
夜、遠い、光の先の、海の果て
そこには、楽園がある
悲しみも、苦しみもない、静かな国
静寂の
遠い国
第一章:偽りの日々 私は同じクラスの相澤美香に強引にくるようにと言われ、裏庭で彼女を待っていたところだった。 私は九月にこの清流学園に入ってきた生徒。時期はずれの転校生ということもあり、最初はなかなかクラスになじめなかったが、最近ようやくクラスメイトとも楽しく会話等をするようになっていた。それで、クラス活動や、学校際などの行事に参加し始めたそんなときである。同じクラスの女子生徒、相澤美香が私に『頼み事がある』そういって私をここに呼び出したのだった。何の頼みかさっぱりわからない。というか、彼女とはあまりしゃべらないので、心当たりもなかったりする。あるとしたら、どうも私が下校するとき、後ろに相澤の気配が・・・。そんなことを考えていたときである。 「おまたせ、まった?」 と、元気のいい声が聞こえてきた。声のほうを振り向いてみると、小柄で華奢な体格、生成のセーターをざっくりときこみ、マフラー、という格好で、校内でも有数の美しさを誇るという、相澤美香がこちらを向いて微笑んでいる。待ち合わせた時間より五分程度しか遅れていないし、私もついさっき、ついたばかりだから、 「別に大丈夫」 と答えた。そうしたら、彼女はなにやら言いづらそうな顔をして、私を見つめたあと、小さな声で私に向かってつぶやく。 「私、その、あなたをはじめてみたとき、一目ぼれして...それで...付き合ってほしくて...。」 「え!!!」 私はその彼女が発した言葉に耳を疑った。あの校内でも有数の美少女と歌われる彼女が私を好き?それに、彼女にはどうも彼氏がいるらしいといううわさもよく耳にする。 そんなことで、私があたふたと戸惑っていると、彼女は止めを刺すかのように、またつぶやいた。 「好き...」 (う、うそだーーーー!)という驚きの叫びは心の中だけにとどめておいたが、本当に驚いた。 "私"、望月 暁は17歳という年齢でありながら、極端に恋愛とかには興味がなかった。だから、このようにすばらしく『鈍い』のである。だから、彼は、彼女からのこういった告白も、不快とまではいかないにしても、あまりよいとは思っていない。自分に密接な関係を持とうとするのを条件反射的にはじいてしまうという性格も影響しているが、それだけではないようだ。 私は、まったく信じられず、思わず聞き返してしまった。でも、それでも彼女は私が好きだという。なぜだろう、なぜ急に…。でも、私はあまり深く考えずに「いいよ。」といってしまった。深く考えると、また悪夢がよみがえりそうだから…。でも、こういうのは初めてで、多少うれしかった。それに、なかなか可愛い子だし。 それ以来、彼女はすっかり私の恋人になってしまった。学校帰りは、いつも一緒に手をつないでかえるし、休日には、町へと二人で手をつないで出歩き、ゲームセンターや図書館など、いろいろなところへ行き、楽しんだ。 今日の休日も、そんなことで彼女との町でデートの待ち合わせをしている。以前ならこのようなことはとてもじゃないけど、考えられない。以前の思考回路を利用するなら…。と、そこまでで、思考を無理やりストップさせた。そう、以前のことは、考えてはいけない。彼女が毎日、私に見せてくれる、そのかすかな微笑みにすかれていく、今のことのみを考えよう。と、そんなことを考えていたら、いつのまにか、彼女が目の前にたたずんでいた。 「とうしたの?一人で頭振っちゃったりして」 やっと彼女がついたみたいだ。といっても、私が早く着きすぎただけなのだが。 「あ、いや、なんでもないんだ。ところで今日、どこに行く?」 そういうように、私が聞いたら、彼女は指を折りながら一つ一ついきたい所をあげていく。そのしぐさが、あまりにも可愛くて、思わず抱きしめていた…。 「やっと、抱きしめてくれたね、暁君…。」 第二章:最後の選択 美香が、照れくさそうに、小さな声でそうつぶやいた。「い、いや、その...ごめん!」 私はなにがなんだかわからないまま、すかさず、謝ったが、彼女は首を振って、 「ううん、謝らなくていいの。私、ずっと前から、暁君にこうしてほしかったから…。」 (な、なんだとーーーー!) 予想外の展開に、もう、頭から火がでそうだ。こんなことになったのは初めてで、頭の中はエラーの嵐だ。 そんなことで、パニック状態に陥っている私は、彼女はすくっと笑いながら、 「そんなに、驚かないで、別に今までどおりの暁君のままでいて。」 と、そんなことを言われて、なんとか、感情をいつもどおりに戻し、いつもと同じように、彼女とのデートを楽しんだ。 しかし、最後の最後で、またもや、異変が起きたのだ。 「今日も、楽しかったね。そろそろ帰ろっか。」 と、美香の元気のいい声が聞こえたので、今日も彼女と一緒に帰路についた。 しかし、いつもなら学校での出来事やその他いろいろな話題で盛り上がるところだが、今日はなぜか、無言だった。そして、美香の家に近くなってから、美香が小さくつぶやくように、私を呼んだ。 「ねえ、暁君…。」 「え、なに?」 と、私が聞き返すと、彼女はもっと小さな声で、 「私の家にこない?」 もうあたりは、暗くなりかけている。 私はその彼女の言葉に、思わず声をあげそうになるのを必死に抑えて、今の状況の把握を試みる。今の思考回路を利用すなら『ついにきたか…。』だし、過去の思考回路を利用するなら『やばい…。』になるし…。でも、彼女の家には付き合ってから三週間もたっているのに一度も入ったことがないから、ただ、一緒に遊んでみるだけ? と、そんなおかしな連想ループにはまって考え込んでいる私を見て、彼女は 「ねえ…。」 とせかしてくる。 私はなぜ、美香が突然、私の一目惚れしたのかさっぱりわからなかった。それで、最近どうも、私のことで変なうわさが流れているというのもよく聞く。これが美香のせいなのかどうかはわからないけど、でも美香と付き合っていると、なんだか楽しくなるのは事実だ。 (深く考えるのはよして、ためしに、美香の家にいってみるか。) そうおもって、私は結局、彼女の家におじゃますることになった。 暁が過去の思考回路の考えを利用していればこんなことにはならなかったのかもしれない。それは、今までの世界の終わり、そして、新たな世界『孤独』への道をたどること。暁にはこのことを知るすべもなく、彼はまだ気づいていない。 第三章:死 私は『一緒に部屋にきて』ということで、彼女の後についていく。 すると、なんだか急に視界がぼやけてきて、急に眠くなってきた。『しまった!催眠ガスだ』と気づいたときにはもう遅く、私は部屋のすぐ前の廊下で倒れた。 それから、どれくらいたっただろう。 私は腕の痛みで目がさめた。そして、愕然としてしまった。 私が今いる部屋は暗くて回りはコンクリートでできている。窓がひとつもないことから、おそらくは地下室。そして、両腕は針金できつく縛られて、鎖でかろうじて足が床につくくらいのところで、柱につるされている。上半身は裸だ…。 (やられた...) そして、目の前には..。彼女が、そう、さっきまで一緒にいた相澤美香がいたのだった。 「どお?気分は」 そう、彼女が私の耳元でささやき、それから、腰につけていたベルトから二十センチほどの棒状のものを引き抜き、ヒュッと一振りする。すると、なんと、シャキシャキシャキと何段にも伸びて二メートル程のロッドになったではないか! 「お、おい、何をする気だ、相澤!」 と私が叫びにもちかい声で彼女に言うと、 「あら、さっきまではやさしかったのに、どうしちゃったのかな?私を呼び捨てになんかして…。」 と残酷にささやいた。と同時に、猛烈な痛みが襲ってきた。 「グッ!!」 ギシギシギシと鎖がゆれ、暁の体に一筋の紅い筋ができる。 しかし、暁は表情すら変えようとせず耐えている。 相澤はそのまま何度も何度もロッドで叩きつづける。 「相澤...どうしたんだ...やめろ...」 そうかすれた声で相澤に言うと、相澤は叩きつけるのをやめ、笑いながら言う。 「どうしたって?見てのとおり、あなたをロッドで痛めつけてるだけじゃない。」 「どうしてなんだ?なんでそんなことをするんだ。さっきまで恋人同士だっただろう。」 そういったら、彼女は人の悪そうな笑みを浮かべて、 「あ、あれ、うそ。あなたががとても可愛かったから。そして、私にとってとても邪魔だったから。あなたがここに着てからずっと思っていた。」 な、なんでだよ!と私はその彼女の言う意味不明なわけに、異様に腹が立ってきた。 「なぜなんだよ!私と君とは関係ないだろ!」 と私は激情にまかせて、叫ぶと、 「なにいってるの、あなた、周りの男の子から人気なのよ。別の意味でね。おかげで私が目立たなくなっちゃうでしょ。」 相澤が暁の鳩尾をロッドで思いっきり突き上げて抉ると、グリップについているボタンを押す。 バチッ という強烈な音とともに、青白い火花が鳩尾にめり込んだロッドの先端から飛び散った。 「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 暁の口から初めて苦痛の叫び声がもれ、体が跳ね上がる。 その後、相澤は失神した暁の針金をはずし、床に転がして、うれしそうにつぶやく。 「あなたの、綺麗な肌を甚振れるなんて…。お楽しみは、こ・れ・か・ら。」 あたりは明るくなり始めていた。そして、暁は相澤の家の裏玄関の前に上半身裸のままで、投げ出されていた。 暁の体からは、痛々しく鮮烈な紅い血が流れ出し、下半身の服を、紅く染め、暁が近くに放り出されていた自分の服を着ると、それもまた、徐々に紅く染まっていく。 (痛てぇ...) 目がさめると、私は相澤の家の裏玄関の前に放り出されていることがわかった。そして、立とうとした瞬間、体中に猛烈な痛みが走り、バランスを崩してまた倒れてしまった。目の前に投げ出されている服を着ようとして、手でつかんだ。そうしたら、手をつけた部分だけ、紅く染まっていた。体の痛みを無視して服をきると、服が体中にへばりついて気持ちが悪い。そして、それもまた、徐々に紅く染まっていくのが見て取れた。 (帰ろう...) 私は思うようにいうことを聞かない体を、必死になって動かし、薄暗いうちに家に帰った。そして、家に着いてから自分で一通り手当てをすると、布団に横になった。それはとても気持ちよく、永遠に目覚めることができないのではないだろうかと思うほど、深い眠りへ誘われていくのを感じた。 私の悪夢は、次の朝の登校時から始まった。 「あ、暁、ちょっとまって。」 登校途中、急に誰かに呼び止められ、声のほうを向いてみると、予想通り、そこには相澤が立っていた。 「何のようだ。」 私が相澤をにらみつけながらそういってみたが、相澤は何事もなかったかのようにその長い髪をかきあげながらいった。 「その言い方はひどいわねえ、ところで、昨日、池田君からノート預かったでしょ。見せてくれる?」 池田君とは、そんなに親しいわけではないが、私の唯一の友達のことだ。 私は、昨日散々自分を痛めつけておいて平気な顔で私に向かってしゃべるその態度に私はひどく腹を立てたが、 登校途中でけんかになって遅刻にでもなったら大変なので抑えておいた。その後、私は池田君から預かった数学のノートを相澤に渡した。その瞬間、私の目の前で信じられない、いや信じたくない事が起きた。 ビリビリッ 私の目の前で池田君のノートがいやな音とともに二つに破れたのである。 「な、なんてことを!」 全身から熱がサーッと引いた。 「ふふふ、わたしを怒らせるからよ。これに懲りたら私の言うことをちゃんと聞くこと。」 と、そういって相澤は走り去っていった。私はあまりにもあきれて怒る気にもなれない。これを悪夢といわずしてなんというのであろうか。 (ど、どうしよう…。) もう授業開始まで時間がない。池田君になんと言えばいいのだろう…。そんなことを考えながらわたしは教室に向かった。 案の定、授業で池田君は先生からノートを忘れてきた罰として質問攻めにされてしまった。 授業後、 「池田君、本当にごめん!ノート紛失してしまって…。あしだ代行品もってくるから…。」 「君にはあきれたよ。もう君にはたのみごとはしない!」 その後、私は必死に謝ったが、質問攻めにさせられた池田君が許してくれるはずもなく、池田君とは一度もしゃべらないでまま、放課後一人で帰った。 「ただいま...」 家に着いても誰もいない。両親は離婚して両方とも私をおいてどこかへ行ってしまい、今では、祖父からの仕送りでアパートを借りて一人で住んでいる。 薄暗くて誰もいない。そんな中で一人でいると無性にさびしくなってきて、私はすぐ布団に潜り悶々として、その日の夜を過ごしていた。思い出されるのは今でもまだ残っている痛みとともに思い出してしまう、忘れたくても忘れられないあの日の出来事。 (迂闊だったよな…。) 今考えてみると、なんであんなときに、相澤なんかにノートを渡してしまったのだろうか。それに、あの破ったあとに相澤の態度。それを思うと、悔しくて悔しくてしょうがない。 でも、一番辛いのは、もう決して池田君は私に振り向いてはくれないだろうということ。友達だったとはいえ、あまり親しい中ではなく許してもらえるかどうか自信がない。 (末期的だ…。) その夜、暁は夢を見た。前の高校での、甘くそして切ない思いの断片。 『ねえ、せっかく会えたんだ、もしよければ、少し遊んでいかない。』 ジリジリジリジリッ 「うわっ!」 私はそんな目覚ましの音で目がさめた。いつのまにか寝てしまったらしい。もう学校へ行く時間だ。 夢の中にずっといることができればさぞ気持ちいいことだろう。と思いながらも学校へ行く準備をする。でも、学校へは行きたくない。また相澤が何かしてくるかもしれないから。 そして、その予想はまた的中してしまった。 学校、トイレの前 「暁、さっきトイレに誰か入っていったでしょ。上から水かけてやって。」 また相澤がわけのわからないことを私にいってきた。 「そんなこと、できるわけないだろう。」 そういったら、突然体中を痛みがはしる。 「...っ!」 どうやら相澤は学校にもスタンガンを持ってきているようだ。 「さっさとやってしまいなさい」 結局私は、本当にそれをしてしまった。 (こんなこと、したくないのに...) 教室に戻ったら、みんなの攻撃的視線が私に向けられた。相澤が私のこの行為をみんなにばらしたらしい。 そのときこそ、私がクラスメイトからはずされた瞬間だった。 このように、相澤から脅されて、悪いことをしてしまう最低な日々が一週間も続いた。 暁の精神は限界まで達していた。 第四章:追憶のかけら 私は家に帰ってから、布団にもぐりこんで泣いた。 「もう、終わりだ」 もう、誰も、私を信用してくれない。もう、誰も私を見てくれない。みんな私を嫌う...。私は相澤のスタンロッドによるいじめを恐れて彼女の言いなりになり、みんなから嫌われた。もう今となっては取り返し様が無い。いっそうのこと、言いなりになんかならず、スタンロッドで殺されていたほうがよかったのかもしれないとつくづく思う。私はすでに、あれだけのことをしてしまった。相澤のせいとはいえ、私が犯してきた罪の数々、そのことを思うと、私はもうこの世界にはいられない...。 「楽になりたい...。誰か、この苦しみから私を助けて...。」 そんなことを考えていたら、私は、ふとあることを思い出した。それは、昔、あの青年が口ずさんでいた、遠い国の唄。 ばかばかしいとは思うけど、今でも信じている、いや信じたい。だから私は夜、あの森へ行き、そして、海のほうへ向かい、そしてずっと光に向かって歩いて、その王国を見つけるのが、私の夢・・・私の願い・・・。夜、遠い、光の先の、海の果て ついに、私は、家を出て、海へ向かった。私は、できるだけ早く行きたかったので、近道をするため、夜は危険だといわれている森の中へはいった。別にいいのだ。もう、どうなっても…。 森の中は、月の光もほとんど入らず、闇の世界のようだ。暗くて寒い。鋭い葉っぱが、私の腕や足に傷をつけていく。でも、それでもいい。あの王国につけば、すべて開放されるという。だから、何がおきてもいい。たとえこの体が動かなくなっても…。 やがて、潮のにおいとともに、かすかな、波打つ音が聞こえてきた。私は、海が近いことを知り、一生懸命走った。服は、もう血で染まって赤黒くなっている。それでも、私は、海へ向かって走りつづけた。そして、やっと海の浜辺についたとき、私は何かの美しい絵を見ているかのような錯覚に陥った。白銀の砂浜の向こう、ずっと地平線まで続くその海は、それほど、美しかったのだ。海を見たなんて、何年ぶりだろう。私が幼かったころはよく海に来て砂遊びなどをしたものだ。でも、最近はほとんどきたことが無かった。だから、こうして、夜月に照らされている海を見ていると、子供のこのろを思い出してしまう。そう、あのころの、何もかもが純粋ですべてのものが新鮮に見えた、古きよき時代…。こんなことを考えるのは年寄りの考えだ、17の自分にはあわない。と思いながら、私は、夜月の下で、夜の海を見ていた。 どれくらいたってからだろう。私は、海に光の筋が映っているのに気づいた。それは、ただ、月の光が水面に映ってそう見えていただけなのだが、私は、それをたどれば、あの王国にたどり着けるような気がした。そう思ったら、連日の悪夢といってもいいくらいの出来事が、次々と私の脳裏に浮かび上がってきて、早く、あの王国に行きたくなった。 ついに、私は、白銀の砂浜を越えて、海の中へ入って、その光の筋の方向に歩き始めた。一歩一歩、ゆっくりと、光の筋の方向に歩いていく。海水が傷口にしみてとても痛い。でも、そんなことはどうでもいい。私は、どんどん、海の中へ入っていった。 そしたら、突然、後ろから声がかかった。 「何をやっているの」 私が、後ろを振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。その月明かりに照らされた細い体と悲しそうな表情。いつも見る、あの前の高校の夢とそっくりだ。私が、その顔をぼーっと見ていると、その青年が、私へ向かってゆっくりと歩いてきた。その情景は、静寂ですべてのものの時間が止まっている中、その青年の周りの時間がだけが、進んでいるような、そんな感じがした。そして、その青年が、私の傍まできたとき、青年はこう聞いてきた。 「どこにいくところだったの?このままじゃ、溺れてしまうよ。」 私は、こう答えた。 「夜、遠い、光の先の、海の果て。そこを越えたところに、楽園があるんだ。そこは、苦しいことも、つらいことも無い、静かでいいところって、誰かから聞いたんだ。」 すると、その青年は、より寂しそうな顔をして、こう、私に、つぶやくように言った。 「それは、生きているものは決して辿り着けないところだ。」 あ、やっぱり、あの詩の国はあるんだ。そう思うと、少し、うれしくなった。 「貴方が連れて行ってくれるの?」 そういったとたん、その青年は、私を抱きしめた。私よりも背が高い彼は、私に覆い被さるように、きつくきつく抱きついた。はじめてだった。誰かに抱きしめられるのは。そして、それは、とても暖かいものだった。しばらくしてから、彼は一言一言、ゆっくりと、話し始めた。 「そこはまだ、君が行くには早すぎる。そこへ行く道は、すべてを失い、希望すら気うせたときに探しても、遅くは無いんだ。だから、今は、もう少し、ここにいることにしよう。僕ももう少しここにいることにする。そうすれば、また、君に会えるかもしれないからね。」 そう、言い終わってから、彼はゆっくりと、身体を離す。そして、 「一緒に、帰ろうか。一人じゃ寂しいよね。」 といった。『寂しい』その言葉に私は酷く心を打たれた。『寂しい』そう、私も、ただ、寂しかったのかもしれない。私には、友達と呼べる友達はいなかったから。それは、普通に喋るくらいの友達はすこしはいる。でも、腹を割って話せるような、本当の友達はいない。こう、私を慰めてくれたのは彼がはじめてだから…。彼も、私と同じなのかもしれない。やっぱり、彼は遠い国の神様だ。私は、そう思う。いや、そう思いたい。 「僕はなぎさ、そういえば、君、名前なんていうの?」 「さとる、望月 暁」 「そうなんだ…。偶然だね。同じ名前。そんな綺麗な顔なのに、悲しそうな顔してたら、せっかくの美貌が台無しでしょ」 そんなことを彼は言うので、(男なのに…。)と少し気恥ずかしくなって、顔が赤くなっているのを隠すため、下を向くと、彼は私に微笑んでくれた。 彼と一緒に帰るとき、もう午前2時を回っていて、かなり寒いが、彼がぴったりくっついていてくれるから、寒くない。それに、久しぶりに、屈託なく話ができて、とても楽しかった。あの危険な森の中も、彼と一緒だったから、大丈夫。本当に、帰り道が永遠に続いていてくれたらいいなと思いつつ、彼とともに帰った。 彼は、遠い夜の国の神様に違いない。私を助けてくれた、私の神様... それから一ヶ月、私は、彼と会うことは無かった。一応、彼と会えたことで、この世界にとどまることにはしたが、彼女の命令は、ますます酷くなるばかり。おまけに、私が命令されて行ったことに腹を立てて、私をいじめてくるものも現れた。彼とも、あれから、一度もあってはいない。 『最期のときも近いかな…。』 第五章:神 昼間は、赤や黄色と、色とりどりに色づいていた木々も、今は、月明かりに照らされて、青白く光るだけ。そして、それらは川に映りこみ、絵でも見ているような錯覚にとらわれそうになる。 そんな中、一人の怪我をした青年が、川原から、森へ向かって走っていた。どうやら、森を抜けて自分の家に帰るらしい。こんな夜遅く、一人で、森を抜けるのは、無謀なことといってもよい。なぜなら、この森の中は、木々が天をさえぎり、月明かりがまったく入ってこない上に、棘のある葉や、野生化した動物など、危険なものがそこらじゅうにあるからだ。 しかし、青年は、それらを気にしないで、走っている。怪我もますます酷くなり、かすり傷や棘が刺さった後などからも、血がにじみ出ている。それにもかかわらず、青年の顔は、無表情で、すべての痛みを忘れてしまったかのように冷たい表情をしている。もし、周りに人がいたなら、その酷い怪我と、冷たい表情で、一瞬で凍り付いてしまうところだろう。 だんだん、青年の走る速さが、遅くなってきた。もう、服はほとんど、血に染まって赤黒くなっている。あれだけ多量に出血しているのだ。なにが、青年をここまで動かしているのか見当もつかない。 それから、数分後、青年は、ある言葉を呟きながら、森の中の、小さな池の前で力尽きた。 『神様。ゆるして…。』 あれからどれくらいたっただろう。家を出るときは夕方だったのだが、もうすっかり夜になり、空は星星のかけらで満たされている。 『結局、あの国にはいけなかったな。』 そんなことを考えながら、私は、森の中の池で横になっていた。もう体は動かない。そう、私は、色々な罪を犯してきた。やはり、私のようなものは、あの国には入れないようになっているのだろう。 『そりゃそうだよな...私、どうかしてたんだ…。』 しばらく横になっているうちに、眠ってしまったらしい、誰かの足音で、目を覚ました。まだ、真夜中で、人などきそうも無い時間である。そして、その人は、私のほうに向かって歩いてくる。細身で長身の、青年。そして、その青年は、月明かりに照らされて、まさに、天使そのもののような感じがした。 「こんなところで、どうしたの?」 私を抱きかかえながら、彼はのやさしい声が、上から聞こえてきた。でも、声は出なかった。というか、どのように答えたらよいのかわからなかった。 「こんな傷、どこで負ったの。これは酷い...」 「毎日、呼び出されては、いじめられていた。」 そうしたら、彼は、わたしを抱きしめてくれた。 「そんなに冷たいからだじゃ、寒いでしょ。僕の熱分けてあげる。」 といいながら... 彼の体が触れたとき、一瞬ビクッとしてしまった。しまったと思って、彼を見たら、彼はやさしく微笑んでくれた。 「そんなに怖がらなくてもいいよ。僕は何もしない。」 それからしばらくの沈黙の後、彼は呟くように、私に言った。 「人が、怖いんだね、きっと。僕もそうだったから...」 人が怖い?なんで? 確かにそうかもしれない。転校してきた当時はみんなに慕われて、ともて嬉しかった。そして、私はそれなりにすかれるために、努力した。でも、時がたつに連れ、周りの生徒が、みな、私に慣れてきて、いつのまにかいじめられるようになっていた。でも、なぜ。なぜ、私がいじめられるのだろう…。人付き合いが苦手なのは認めるけど、他人に不快に思われるようなことは一切していない、いや、いじめられる前までは、だが。 「ねえ、どうしてかな。どうして、私、いじめられるんだろう…。何もしてないのに…。」 私は、彼に聞いてみた。彼なら、なぜか、信頼できそうだったから。話しても大丈夫だと思ったから。 「僕もなんだ、僕もいつも虐められてて…。それで僕は、転校してきたんだ。でも、転校後もいじめられて...だからここにいつもきてた。」 と、彼はいった。そこで、私は突然、あることに気がついた。もしかして、彼は私が清流学園に入る前の学校での、私の『神様』かもしれない。 「もしかして、なぎさ君って、以前、同じ高校だった?」 「そう、なぎさ暁。」 やっぱり、私はうれしかった、まさか昔の、もう会うことはないだろうと思っていた、夢の中の私の神様がいたのだから。 前の高校での、苦い思い出、 『また、ひどく虐められたんだね。』 そんなことが、私の脳裏を横切る。 そう、望月暁となぎさ暁は、二人とも清流学園に転向する前まで、いじめターゲットとして、ひどくいじめられてて、近年、校長会議で問題になり、いじめが少ないといわれている、気流高校、清流学園に転校し、それ以来、連絡もできず、一度も会っていなかったのだ。 「よかった。」 そう、私は言って、なぎさ君に抱きしめられながら泣いた。彼の腕の中はとても、暖かく、そして、彼の美しい横顔、私を慰めてくれる言葉、そのすべてが、私を安心させてくれる。 「ねえ、私、許されるかなあ...。」 そうしていたら、唇に暖かいものが降りた、キスしてくれた?なぎさ君が…。 「あ…。」 「僕、暁君が…好きなんだ。男同士だけど…ほんとに…。」 「私も、好き…。」 「もう、絶対に離さないから…。」 そんな甘いことを言いながら、つきの明かりの元、小さな池と森の木々を背景に、二人はいつまでも抱きしめあい、キスをしていた…。 『やっぱり、なぎさ君、あなたは、私の神様だったんだ…。』 終章:永遠に... それから、私は、なぎさ君に負ぶさってなぎさ君の家に連れて行ってもらった。その間、 「ねえ、なぎさ君、なんで、あの時、あの唄を呟いていたの?」 「それは、僕もあのころは、かなり虐められてたし、でも、暁君ほどじゃないけど、でも、それだけじゃない。」 「え、なに?」 「それは…。暁君とずっといっしょにいたかったから。つらい日々を抜け出し、二人で生きれたらいいなって。でも、あの時は僕、弱かったから…。」 うれしかった。前の高校でも、彼は私のことが好きだったといってくれる。なぜなら…。私も好きだったから。そう、研修旅行で、同じ部屋になったとき、夜、彼が寝てるとき、こっそりキスしてしまったりとか…。そんなことを考えると、涙が止まらなくなる、そして、今まで、自分がしようとしてきたことも、なんだか急に馬鹿なことのように思えてきた。もう、なぎさ君なしではいられない…。 「もう、あんな自殺なんてしないよ。」 と、私が言ったら、彼も無言で微笑んでくれた。 「ずっと、そばにいる…。」 そんな呟きが聞こえたような気がする。 そうして、彼の家に着いた。 彼の家に月まで、とても、彼の背中が気持ちよくて、つい寝てしまったらしい。気が付いたら、彼のベッドの上だった、体の痛みのほうも、だいぶ治まった。彼がきっと手当てしてくれたのだろう。 そして、よく見ると、すぐ横に、彼もがいた。なんてきれいなんだろう、そう思ってじっと見つめていたら、私が起きたのに気が付いたようだ。 「あ、起きたんだ。今日はもう遅いから、いっしょに寝よう。」 「え、あ、ありがとう」 そういってまた、もぐりこむ。自然に唇が合わさった。 そしたら、彼が、 「そういえば、暁君って、一人でアパートで暮らしていたよね。」 「うん。」 「それだったらさあ、うちにこない?そして、あんな高校辞めて大検使って大学に行こう」 「え、ほんとにいいの?」 「うん」 というので、私はかれのアパートにすむことにした。どうせアパートをでても、誰も何もしないだろう。果たして高校二年で大検が受かるかどうか、心配だが、なぎさ君がいれば何でもできそうな気がする。 なんとなく、なぎさ君を見つめていると、なぎさくんが私にぴったりくっついてきてこう言ってくれた。 「この世の中には、だましたり、裏切ったり、そんなものはいくらでもある。でも、本当に信じれるものは、めったに無い。でも、そんななか、唯一信じられるものがあったら、僕はそれを大事にしたい。」 「なぎさ君…。ありがとう…。」 その夜、私は、なぎさ君と同じ布団のなかで、体をくっつけて寝た。 彼の体は温かくて、私をひどく安心させてくれる。 私の、なぎさ君との新しい世界。 人との出会いにはたくさんの偶然が必要で、私が渚君と会うまで、いろいろといじめられていたのも、 なぎさ君と会うためと思えば、少しは気が楽になる。生きている意味があってよかったと思える。 この先、ずっと、なぎさ君と一緒でいられればいいと思う。 The Final笑
というわけで、無事遠い国の収録は終わり、この小説版は○○○○の『ぽとし of The Year』に投稿されることとなった。 はたして、こんな終わり方で、いいのだろうか...(笑) 後書き
本当に、ごめんなさい。でも、ありがとうございます。未熟で、根性曲がった小説を、読んでいただいて。 (でも、私自身はここまでひねくれてないので誤解のないように…。) でも、本当にありがとうございました。 一言 暁、なぎさ、ともに男なので、あしからず、それで、両方ともかっこよく、つやっぽいって感じの男の子を想像しながら読んでもらえればうれしいです。 それと、前半、の異性との恋愛は結局、暁がだまされてしまって偽のものとなって、後半の同性での恋愛は成就するという羽目になってしまいましたが、僕は異性との恋愛を否定するわけではありません。これはあくまで設定上でのものですので気に障ったかたは申し訳ありません…。 The End |